親のための行動経済学お小遣い術

お小遣い増減の「感じ方」を行動経済学で理解 プロスペクト理論で教える子どものお金の価値観

Tags: プロスペクト理論, お小遣い, 金融教育, 行動経済学, 子育て

お小遣いを渡す中で、子どもがお金に対して不思議な反応を示すと感じることはないでしょうか。例えば、お小遣いが少し増えると大喜びするのに、少し減ると非常に不満に感じたり、一度手にしたお小遣いを手放すことを極端に嫌がったりすることがあります。このような子どものお金に対する「感じ方」には、行動経済学の知見が役立ちます。

プロスペクト理論とは何か? お小遣い教育への示唆

今回注目するのは、行動経済学の最も有名な理論の一つである「プロスペクト理論」です。プロスペクト理論は、人が不確実な状況下でどのように意思決定を行うかを説明する理論で、特に「利得(得るもの)」と「損失(失うもの)」に対する感じ方の違いに焦点を当てています。

この理論がお小遣い教育で示唆することは、子どもがお金(お小遣い)を単なる数字やモノの交換手段としてだけでなく、感情を伴うものとして捉えているということです。そして、その感情は、お金が「増えるか減るか」といった変化や、何かの基準点から見て「得をしているか損をしているか」によって大きく左右されます。

プロスペクト理論の要素とお小遣いでの具体例

プロスペクト理論にはいくつかの重要な要素がありますが、お小遣い教育で理解しておきたいのは主に以下の3点です。

  1. 参照点依存性: 人は絶対的な金額ではなく、何らかの「参照点」(基準となる状態や金額)からの変化(得か損か)によって物事を評価します。

    • お小遣い例: いつも500円のお小遣いをもらっている子どもにとって、参照点は500円です。もし600円もらえれば「得をした」と感じ喜びますが、400円に減らされると「損をした」と感じて強く不満を抱く可能性があります。たとえ他の子より400円が多くても、自分にとっての基準点(500円)より少なければ損と感じやすいのです。
  2. 損失回避: 人は同じ額であれば、利得を得たときの喜びよりも、損失を被ったときの痛みをより強く感じます。

    • お小遣い例: お小遣いが100円増えることによる喜びよりも、お小遣いが100円減ることによる不満の方が大きいのが一般的です。これは、子どもがお小遣いの管理で失敗し、せっかく貯めたお金を少し使ってしまったときに、その「失った」という感覚に強く影響されることにもつながります。
  3. 感応度逓減性: 参照点からの変化が大きくなるにつれて、感情の「感度」は鈍くなります。つまり、最初の変化は大きく感じますが、そこからさらに変化しても、追加の感情の大きさはだんだん小さくなります。

    • お小遣い例: お小遣いがゼロから100円になる変化は大きく感じますが、100円から200円になる変化はそれほどでもなく、1000円から1100円になる変化はさらに小さく感じる傾向があります。これは、お小遣いを段階的に大きくしていく場合に、同じ増額幅でも最初のうちは喜びが大きいが、慣れてくると増額に対する喜びが薄れてくる可能性があることを示唆しています。

行動経済学を応用したお小遣い設計のヒント

これらのプロスペクト理論の知見は、子どもにお金との健全な向き合い方を教える上で多くのヒントを与えてくれます。

まとめ

行動経済学のプロスペクト理論を理解することで、親は子どもがお小遣いの増減や使い方に対してなぜ特定の反応を示すのか、その背景にある心理を深く理解できます。子どもはお金を得る喜びよりも失う痛みを強く感じ、基準点からの変化に敏感に反応します。

この知見を踏まえ、お小遣いの金額設定や変更、そして子どもとの関わり方において、損失の痛みを和らげ、利得の喜びをより感じさせるような工夫を取り入れることができます。お金の価値を多角的に感じさせ、賢くお金と向き合う力を育むために、プロスペクト理論の視点をぜひ役立ててみてください。