親のための行動経済学お小遣い術

子どものお小遣い教育の前に 親自身の「お金のクセ」を行動経済学で知るヒント

Tags: 行動経済学, お小遣い教育, 金融教育, 子育て, お金の習慣

子どもの金融教育に関心を持つ保護者は多いかと思います。子どもが将来お金で困らないように、賢くお金と付き合えるようにと願い、お小遣いの渡し方や使い方について色々と工夫されていることでしょう。

もちろん、子どもへ直接教えることも非常に重要です。しかし、子どものお金に関する考え方や習慣は、親自身の日々の行動や無意識の「お金のクセ」からも大きく影響を受けるという側面があります。これは、行動経済学の視点から見ても興味深い点です。

今回は、親自身の持つ可能性のある「お金のクセ」を行動経済学の概念を交えて解説し、それが子どものお小遣い教育にどう関係してくるのか、そして親としてどのような点を意識できるのかについて考えてみます。

子どもは親の「お金の行動」を見ている

子どもは、言葉だけでなく親の行動から多くのことを学びます。お金に関しても例外ではありません。親がどのように考え、どのように行動してお金を使ったり貯めたりしているのかを、子どもは日常的に観察しています。

行動経済学では、人間は必ずしも完全に合理的な判断をするわけではないと指摘されています。感情や状況、無意識のバイアスによって、非合理的な行動を取ることがあります。親自身も、こうした行動経済学的な「クセ」を持っている可能性があります。そして、それが子どもに影響を与えている可能性があるのです。

親によく見られる「お金のクセ」を行動経済学で読み解く

親自身が持つ可能性のある、お小遣い教育にも関わるいくつかの「お金のクセ」を行動経済学の視点から見てみましょう。

目先の利益を優先してしまう「時間割引(現在バイアス)」

行動経済学の「時間割引」とは、将来手に入る価値よりも、今すぐ手に入る価値を高く評価する傾向のことです。「現在バイアス」とも呼ばれます。

例えば、親自身が「今だけ〇%オフ!」といったセールにつられて、本来必要なかったものを衝動的に買ってしまったり、将来のための貯蓄よりも目先の楽しみにお金を使いすぎてしまったりすることがこれにあたります。

このような親の姿を見た子どもは、「我慢して将来のために貯めるより、今すぐ欲しいものを手に入れる方が良いんだ」と感じるかもしれません。お小遣いを受け取るとすぐに使ってしまう、といった子どもの行動に繋がる可能性も考えられます。

提示の仕方で判断が変わる「フレーミング効果」

「フレーミング効果」とは、同じ情報でも、どのように提示されるか(フレーム)によって人々の意思決定が変わる現象です。

例えば、親が「このおもちゃ、定価1万円だけど、今は3000円だよ!70%オフ!」と、割引率を強調して嬉しそうに購入する姿を見せると、子どもは「割引率が高い=お得で良い買い物」と認識するようになるかもしれません。一方、「このおもちゃに3000円も出すの?」というネガティブなフレームで見ている親を見れば、お金を使うことに否定的な印象を持つかもしれません。

お金の価値判断は複雑ですが、親がどのような言葉や態度でお金に関する物事を捉えているかが、子どものお金に対する初期の「フレーム」を作る可能性があります。

過去の支払いに引きずられる「サンクコスト(埋没費用)」

「サンクコスト」とは、既に支払ってしまい、もはや取り戻せない費用のことです。行動経済学では、人々はこのサンクコストに囚われ、本来なら中止すべきことから撤退できなくなる傾向(サンクコストの誤謬)があることが知られています。

例えば、親が「せっかく高いお金を出して買ったんだから」と、もう飽きてしまった子どもの習い事を無理に続けさせたり、不要になった高価なものを捨てられずに持ち続けたりする姿です。

このような親の姿を見た子どもは、「一度お金をかけたら、それが無駄にならないように続けなければならない」と感じるかもしれません。お小遣いで買ったものでも、気に入らなくなったら手放して良い、という柔軟な考え方を持ちにくくなる可能性があります。

最初の情報に判断が左右される「アンカリング効果」

「アンカリング効果」とは、最初に提示された情報(アンカー)が基準となり、その後の判断が無意識のうちに影響を受ける現象です。

例えば、親が買い物をするときに、提示されている「元値」や「推奨小売価格」を基準に「安い」「高い」を判断する姿を子どもは見ています。また、親自身が子どものお小遣い額を決めるときに、自分の子どもの頃のお小遣い額や、周りの家庭の情報をアンカーにしてしまい、子どもの成長や家庭の状況に合った適切な額を柔軟に考えられないといったことも起こり得ます。

親がどのような情報を「アンカー」にしてお金の価値を判断しているかが、子どもがお金の価値をどう捉えるかに影響を与える可能性があります。

完璧ではない人間の判断「限定合理性」

行動経済学は、人間が情報処理能力や時間、知識に限界がある中で意思決定を行う「限定合理性」を持つ存在であると考えます。親も完璧ではありません。お金の管理で失敗することや、最善ではない選択をすることもあるでしょう。

例えば、家計の計算が苦手でどんぶり勘定になってしまったり、面倒だからと細かいお金の管理を諦めてしまったり、複雑な金融商品を選ぶのが難しくて決められなかったりする親の姿です。

こうした親の「限定合理性」による行動を隠す必要はありません。むしろ、親も間違うことや、お金の管理が難しい側面があることを正直に見せることで、子どもは「完璧でなくて良い」「学びながら改善していけば良い」と考えることができるようになります。

親自身が「お金のクセ」を意識することの重要性

親自身の「お金のクセ」を意識することは、子どものお小遣い教育においていくつかの点で重要です。

  1. 無意識の影響を理解する: 子どもは親の鏡とも言われます。自分の無意識の行動がお子さんにどのような影響を与えている可能性があるのかを知ることで、より効果的な教え方を考えるヒントになります。
  2. より良いロールモデルになる: 自身の「お金のクセ」に気づき、より合理的な判断やより良い習慣を意識することで、子どもにとってより良いロールモデルとなることができます。完璧である必要はありませんが、意識して改善しようとする姿勢を見せることは大切です。
  3. 親子で共に学ぶ姿勢を持つ: 親自身もお金について完璧ではないことを認め、子どもと一緒に学び、考え、改善していく姿勢を示すことで、子どもは失敗を恐れずに挑戦できるようになります。

まとめ:親子で行動経済学からお金を学ぶ

子どものお小遣い教育は、単にお金の計算や管理方法を教えるだけでなく、お金に対する価値観や判断力を育む過程です。この過程において、親自身の行動や考え方が子どもに与える影響は無視できません。

今回ご紹介したような行動経済学の視点から、親自身の「お金のクセ」を振り返ってみることは、お子さんへの教え方を考える上で、そして親自身のお金との付き合い方を見直す上で、きっと役立つはずです。

親が自分自身の「お金のクセ」を知り、必要に応じて改善を試みるそのプロセス自体が、子どもにとっての貴重な金融教育となるでしょう。親子で一緒に、行動経済学の視点を取り入れながら、お金について楽しく賢く学んでいくことを目指しましょう。