お小遣いの使い方を変えられない子に 行動経済学「現状維持バイアス」で貯金習慣を促す
子どもがお小遣いの使い方を変えられない理由
お子さんにお小遣いを渡し始めたものの、「いつも同じものばかり買っている」「貯金箱にお金は貯まるけれど、それを使う・貯める習慣が定着しない」といったお悩みをお持ちの保護者の方もいらっしゃるかもしれません。せっかくお小遣いを渡しても、その使い方に変化が見られなかったり、将来につながるようなお金の習慣がなかなか身につかなかったりすると、少しがっかりしてしまうこともあるでしょう。
なぜ、子どもは一度身についたお金の使い方や習慣を変えにくいのでしょうか。行動経済学には、この疑問を読み解くヒントがあります。
現状維持バイアスとは
行動経済学における「現状維持バイアス(Status Quo Bias)」とは、人間が、たとえそれが最善の選択ではないとしても、現在の状況や状態(現状)を維持することを好む、あるいは変化を避ける傾向のことを指します。新しい選択や変化には、未知のリスクやコスト(精神的なものも含めて)が伴うため、人は無意識のうちに現状に留まろうとします。
例えば、契約更新時に特に手続きをしなければ自動的に既存のプランが継続される場合、多くの人が新しいプランを検討することなく現状のプランを選び続ける傾向があります。これは、新しいプランを比較検討する手間や、変更することによるリスク(実は自分に合わない可能性など)を避けたいという心理が働くためです。
お小遣い教育における現状維持バイアス
この現状維持バイアスは、子どものお小遣いの使い方やお金に関する習慣にも影響を与えています。
- いつも同じ使い方: 一度、特定のお菓子やおもちゃにお小遣いを使う習慣ができると、たとえ他に魅力的なものがあっても、あるいは貯金を始めた方が良いと頭では理解していても、同じものを買い続けるという現状維持を選びやすくなります。
- 貯金が始まるハードル: 「貯金する」という新しい習慣を始めること自体が、子どもにとって現状(お小遣いは使うもの、手元に置いておくもの)からの変化を伴います。貯金箱にお金を入れる、銀行に行く、といった行動には手間がかかるため、なかなか新しい習慣が定着しない場合があります。
- 「使わない」という現状維持: 貯金箱に入れたお金を「使わない」という状態が現状になると、今度はそれを使うことに抵抗を感じ、お金が貯まる一方で使用する機会を逃してしまう、といったケースも見られます。これは、貯金を使うこと自体が現状からの変化となるためです。
子どもがお小遣いに関して変化を避ける背景には、「新しいことに挑戦するのが面倒」「失敗したらどうしよう」「みんなと同じでいたい」といった現状維持バイアスが働いている可能性があるのです。
現状維持バイアスを乗り越え、新しい習慣を促すヒント
子どもの現状維持バイアスを理解することは、親がお小遣い教育でどうサポートすべきかを考える上で役立ちます。新しいお金の習慣(例えば貯金)を促すためには、変化へのハードルをできるだけ下げてあげることが重要です。
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「初期設定」でサポートする: 新しい習慣を始める最初のステップを親が手伝ってあげることで、現状維持バイアスを乗り越えやすくします。例えば、最初のお小遣いの一部を一緒に貯金箱に入れたり、貯金する日や金額を具体的に決めたりするなど、「まずはこうしてみよう」という初期設定を提示します。
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小さな変化から始める: 一度に大きな変化を求めず、できる範囲の小さなステップから始めます。「お小遣いのうち10円だけ貯金してみよう」「今週は買うものを1つだけ減らしてみよう」など、現状からの変化量を小さくすることで、心理的な抵抗を減らすことができます。
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新しい習慣を「当たり前」にする工夫: 新しい習慣を現状の一部にしてしまうような工夫も有効です。例えば、お小遣いを渡すときに「これは使う分、これは貯金する分ね」と最初から分けて渡す仕組みを作るなど、貯金を「当たり前のこと」として提示します。
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成功体験を積ませる: 新しい使い方や貯金によって良い結果(欲しかったものが買えた、目標金額に達したなど)が得られた経験は、変化に対するポジティブなイメージを与え、次のステップへの意欲につながります。小さな成功を褒め、その経験を一緒に振り返ることが大切です。
まとめ
子どもがお小遣いの使い方や習慣をなかなか変えられない背景には、行動経済学でいう「現状維持バイアス」が関係している可能性があります。これは、人間が本能的に変化を避け、慣れ親しんだ状況に留まろうとする心理傾向です。
このバイアスを理解することで、子どもを頭ごなしに叱るのではなく、「どうすれば変化へのハードルを下げられるか」という視点でサポートを考えることができます。新しい習慣の「初期設定」を手伝う、小さなステップから始める、新しい習慣を当たり前のこととして提示する、成功体験を積ませるといった方法を通じて、子どもがより良いお金の習慣を身につけていく手助けをすることができるでしょう。
現状維持バイアスは誰にでもあるものです。お子さんのお金の使い方を見守る際に、この考え方が少しでも参考になれば幸いです。