親のための行動経済学お小遣い術

行動経済学で考える お小遣いの「基準点」が子どものお金の価値観を変えるヒント

Tags: 行動経済学, お小遣い教育, 参照点依存性, 金融教育, 子育て

お小遣いの「基準点」が子どものお金の価値観を変える理由

お小遣いを渡していると、子どもが親の意図とは少し違うお金の感覚を持っているように感じることがあるかもしれません。例えば、同じ金額のお小遣いでも、ある時はすごく喜ぶのに、別の時は「少ないな」と不満そうにしたり。欲しい物を買えた時も、満足度が違ったりします。

これはなぜでしょうか。実は、子どもが絶対的な金額や価値だけでお金を捉えているわけではないことに、行動経済学の考え方がヒントを与えてくれます。特に「参照点依存性」という概念は、この違いを理解するのに役立ちます。

行動経済学「参照点依存性」とは

参照点依存性とは、人間が物事を評価する際に、絶対的な価値ではなく、何らかの「基準点(参照点)」から見て、それが「利得(得)」なのか「損失(損)」なのかによって感じ方や判断が変わるという行動経済学の基本的な考え方です。

例えば、給料が1万円上がった時、それが去年の給料を基準にした1万円増であれば嬉しく感じるかもしれません。しかし、もし同僚が3万円上がったと聞いたら、自分の1万円増を「損した」と感じてしまう可能性もあります。この例では、「去年の給料」や「同僚の給料」が参照点になっています。人は、現状や期待、他者との比較など、様々なものを基準点として無意識のうちに設定し、そこからの変化に敏感に反応する傾向があるのです。

この考え方は、子どものお小遣いについても当てはまります。子どもたちもまた、絶対的なお小遣い額だけでなく、様々な「基準点」と比べて自分のお金を評価しているのです。

子どもがお金で設定する「基準点」の例

子どもたちが無意識のうちに設定するお小遣いに関する「基準点」には、いくつかのパターンがあります。

  1. 過去のお小遣い額: 「先月はこれだけだったから、今月は多い/少ない」という基準です。もしお小遣いを増額した場合、子どもは一時的に喜びますが、その額が続くとそれが新たな基準点となります。もし何かの理由で減額すると、以前の額を基準点として「損をした」と強く感じてしまう可能性があります。

  2. 友達や兄弟のお小遣い額: 「〇〇君はもっともらっている」「お兄ちゃんはこれだけなのに」といった、他者との比較を基準点にするパターンです。この比較が、自分のお小遣いに対する満足度や不満に直結することが多くあります。

  3. 「当たり前」だと思っていること: 「お小遣いは毎月もらえるのが当たり前」「お手伝いをしたら必ずもらえるもの」といった期待や慣習も基準点になり得ます。この期待が満たされない場合に、不満や反発につながることがあります。

  4. 目標としている貯金額や欲しい物: 「あと〇円貯めればこれが買える」という具体的な目標額や、「これだけ使ったら目標に届かない」という意識も基準点となります。目標達成に向けて進んでいる状況を「利得」、目標から遠ざかる状況を「損失」のように捉えることがあります。

これらの様々な基準点が、子どものお小遣いに対する感情や行動に影響を与えているのです。

参照点を意識したお小遣い教育のヒント

子どものお金に関する行動や感じ方を理解し、より良いお小遣い教育を行うためには、子どもがどのような「基準点」を持っているかを意識することが大切です。そして、親が少し工夫することで、よりポジティブな基準点を持つように促すことができます。

まとめ

子どものお小遣い教育において、行動経済学の「参照点依存性」という視点を取り入れることは、子どもがお金をどのように捉え、なぜ特定の行動をとるのかを理解する上で大変役立ちます。

子どもは無意識のうちに様々な「基準点」を持っています。その基準点を親が理解し、関わり方を少し変えることで、子ども自身がより前向きに、そして賢くお金と向き合えるようなサポートができるようになります。お金の絶対的な価値だけでなく、子どもが何と比較してお金を評価しているのかに目を向け、ポジティブな「基準点」を持てるように導いていくことが、お小遣い教育の質を高めるヒントとなるでしょう。