お小遣いの失敗を正当化しちゃう子へ 行動経済学「認知的不協和」で振り返りを促す
お小遣いの失敗、なぜ子どもは認めようとしないのか
子どもにお小遣いを与え、お金の管理や使い方を学ばせる過程では、時には無駄遣いなどの「失敗」が起こります。親としては、その失敗を認め、反省し、次に活かしてほしいと願うものです。しかし、子どもによっては、自分の行動を認めず、「あれは必要だった」「これで良かったんだ」などと正当化するような態度をとることがあります。
このような子どもの様子を見て、「どうして素直に失敗を認められないのだろう」「反省しないと成長しないのに」と、もどかしく感じた経験のある保護者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
実は、このような「正当化」の背景には、私たちの誰もが持つ心理的なメカニズムが関係している場合があります。それが、行動経済学の分野でも注目される「認知的不協和」です。
行動経済学「認知的不協和」とは?お小遣い教育での具体例
認知的不協和とは、人が自身の「認知」(考え、信念、態度)と、実際の「行動」との間に矛盾や食い違いを感じたときに生じる、不快な心理状態のことです。そして人は、この不快感を解消するために、自身の認知や行動のどちらか、あるいは両方を変えようとします。
例えば、「自分は賢くお金を使う子どもであるべきだ」という認知を持っていたとします。しかし、実際には衝動的に「無駄遣い」をしてしまいました。このとき、「賢く使うべき」という認知と、「無駄遣いをした」という行動の間に矛盾が生じ、不快な認知的不協和が発生します。
この不快感を解消する方法はいくつか考えられます。
- 行動を変える: 「これからは無駄遣いをやめよう」と決意し、実行する。
- 認知を変える(または行動の認知を変える): 「あれは無駄遣いではなかった」「衝動買いも時には良い勉強だ」などと、自分の行動を正当化したり、認知そのものを変えたりする。
- 新しい認知を加える: 「あの友達も買っていたし、流行に乗るのは大事だ」などと、自分の行動を肯定するための新しい理由を探す。
子どもが自分の失敗を認めず正当化するのは、主に2や3の方法、つまり「行動を変える」よりも「認知の方を変える」ことで、手っ取り早く認知的不協和を解消しようとしている心理状態と考えられます。失敗をストレートに認めるのは、自分の「賢くありたい」という認知を傷つける行為になりかねないため、無意識のうちにそれを避けようとするのです。
子どもの認知的不協和を理解し、学びを促す関わり方
子どもの「正当化」は、決して悪意や反抗心だけではなく、認知的不協和という心理的な反応が背景にあることを理解することは、親が冷静に、そして建設的に対応するための第一歩となります。では、この認知的不協和を理解した上で、どのように子どもが失敗から学びを得られるようにサポートすれば良いのでしょうか。
1. 頭ごなしに否定せず、まずは子どもの話を聞く
子どもが正当化するような言い訳を始めたとき、すぐに「それは違うよ」「言い訳しないで」と遮ってしまうと、子どもは自分の認知的不協和をさらに強く感じ、余計に頑なになったり、心を閉ざしてしまったりする可能性があります。
まずは「そう感じたんだね」「どうしてそう思ったの?」と、子どもの言い分やその時の気持ちに耳を傾ける姿勢が大切です。これにより、子どもは自分の内面の不協和と向き合いやすくなる土壌が生まれます。
2. 客観的な事実と向き合う質問をする
感情的に「だって…」「でも…」となっている子どもに対して、冷静に事実を振り返る質問を投げかけます。
- 「そのお菓子を買うのに、お小遣いからいくら使ったかな?」
- 「本当にそれが欲しかった理由は何だったかな?」
- 「あの時、持っていたお金は全部でいくらだったかな?」
- 「最初に『これを買おう』と決めていたものとは違うかな?」
このように、金額や買った場所、その時の状況など、具体的な事実に焦点を当てることで、子どもは感情から少し離れて、客観的に自分の行動を捉えやすくなります。これは、自身の「行動」という認知を正確に把握する手助けになります。
3. 別の可能性や結果を一緒に考える
無駄遣いをしてしまったという行動は変えられません。しかし、その時の「認知」や、そこから得られる「学び」を変えることで、認知的不協和を解消し、次につなげることができます。
- 「もし、あの時そのお菓子を買わずに貯金していたら、今どうなっていたかな?」
- 「このお金を、本当に欲しかった△△のために取っておいたら、どんな気持ちになったかな?」
- 「今回使ったお金で、他にできたことはあったかな?」
このように、別の選択肢があったことや、その選択によって起こり得た別の結果を一緒に考えることで、子どもは自分の行動以外の「認知」に目を向け、「もしかしたら、別の選択の方が良かったかもしれない」と気づくきっかけを得られます。これは、失敗した行動の認知を、学びや教訓という新しい認知で上書きするプロセスと言えます。
4. 失敗そのものよりも「学び」に焦点を当てる
「失敗したこと」を強く責めるのではなく、「この経験から何を学べた?」という点に焦点を当てる声かけは非常に有効です。
- 「今回は、欲しいものを『その場ですぐに』買ってしまうことが分かったね。次からはどうしてみようか?」
- 「計画していたもの以外にお金を使ってしまう時があるんだね。どうすれば計画通りに使いやすくなるかな?」
このように、失敗を「悪いこと」として断罪するのではなく、「自分の行動パターンを知る貴重な機会」「次に活かすためのデータ」として捉え直すように促します。これにより、子どもは失敗経験をポジティブな学びとして捉えやすくなり、認知的不協和を「失敗した自分はダメだ」という方向ではなく、「この学びを得た自分は成長できた」という方向に解消できるようになります。
まとめ:失敗は成長の機会、行動経済学で子どもの心に寄り添う
子どもがお金の失敗を正当化してしまうのは、自己肯定感を守ろうとする自然な心理反応、すなわち認知的不協和が背景にあると考えられます。このメカニズムを理解することで、親は子どもを頭ごなしに否定するのではなく、その心理に寄り添いながら、冷静に、そして建設的に関わることができます。
失敗から目を背けず、客観的な事実と向き合い、別の可能性やそこから得られる学びを一緒に考えるサポートを通じて、子どもは自身の行動を多角的に捉え直し、認知的不協和を成長へのエネルギーに変えていくことができるようになります。
お小遣いの失敗は、子どもが自分自身のお金との向き合い方を知り、より賢い選択をするための貴重な学びの機会です。行動経済学の知見を活かして、子どもの心の動きを理解し、その成長を温かく見守り、サポートしていきましょう。