子どものお金の使い道を分ける? 行動経済学「メンタルアカウンティング」をお小遣い教育に活かすヒント
お金に「名前」をつけてしまう子どもの心理とは
お子さんにお小遣いやお年玉を与えた際、特定の目的のために使うお金と、そうでないお金を、まるで別々のもののように扱っていると感じたことはありませんか。例えば、お小遣いはすぐに使ってしまうけれど、お年玉は大切にしまっておく、あるいは、お手伝いでもらったお金はゲームに使うけれど、誕生日にもらったお金は貯金する、といった様子です。
これは、行動経済学で「メンタルアカウンティング(心の家計簿)」と呼ばれる考え方で説明できることがあります。メンタルアカウンティングとは、人々がお金を物理的な形態や出所に関わらず、心の中でカテゴリ分けし、それぞれのカテゴリに対して異なる扱いをする傾向を指します。
行動経済学「メンタルアカウンティング」とは
私たちは無意識のうちに、お金を「給料」「ボーナス」「臨時収入」「お小遣い」といったように分類し、それぞれのお金に対して「これは使ってもいいお金」「これは貯めておくお金」といったラベルを貼っています。これがメンタルアカウンティングです。
例えば、給料の中から生活費を払うことには抵抗がなくても、道端で拾った1,000円をそのまま使うことには罪悪感が少ないかもしれません。あるいは、ボーナスをいつもより高価な外食に使うのは許せても、普段の給料から同じ金額を使うのはためらう、といったこともメンタルアカウンティングの一例です。
この心の分類は、お金の管理を分かりやすくする側面がある一方で、必ずしも合理的でない支出や貯蓄の判断を引き起こす可能性も持ち合わせています。お金自体に色や価値の違いはないにも関わらず、どこから来たお金か、何のためのお金かによって、その使い道や重要度を心の中で変えてしまうのです。
子どものお小遣い教育にメンタルアカウンティングの視点を活かす
子どもの場合も、大人と同じようにメンタルアカウンティングを行う傾向が見られます。お小遣いはお小遣い用の口座、お年玉はお年玉用の口座、といったように、心の中で異なるカテゴリに分けています。
これは、お金の管理の初期段階としては理解しやすい方法かもしれません。しかし、お金全体の流れや、異なるお金の間でのやりくり、資産全体の管理といった視点を育む上では、課題となる可能性があります。特定のお金のカテゴリが不足していても、他のカテゴリに十分なお金があることに気づかない、あるいは、特定のカテゴリのお金だけを浪費してしまう、といった非合理的な行動につながることも考えられます。
では、このメンタルアカウンティングの知識を、子どものお小遣い教育にどのように活かせばよいのでしょうか。
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お金全体を「見える化」するヒント: 複数の財布や貯金箱がある場合でも、定期的にすべてのお金を集めて「今、これだけのお金があるんだよ」と全体像を見せる機会を作ることで、子どもはそれぞれのお金が全体の一部であると認識しやすくなります。一つの通帳やアプリで管理することも、全体を把握する手助けになります。
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お金の「出所」より「使い道・目的」に焦点を当てる: 「このお金はどこから来たの?」と尋ねるよりも、「このお金で何をしたい?」あるいは「このお金は、前に話した〇〇(貯金目標など)のために使うのはどう?」といったように、お金の「目的」や「使い道」に焦点を当てて声かけをすることが有効です。これにより、お金は特定のカテゴリに縛られるものではなく、様々な目的に使える汎用的なツールであるという理解を促します。
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「使い道」ごとの予算設定を一緒に考える: 例えば、もらったお小遣いを「使うためのお金」「貯めるためのお金」「寄付するためのお金」といったように、子ども自身が使い道に応じて金額を分ける練習を一緒に行います。これはメンタルアカウンティングの一種ではありますが、意識的に、そして計画的にカテゴリ分けを行うことで、衝動的な支出を抑え、優先順位を考える力を養うことができます。
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失敗談も共有する: もし親自身が過去にメンタルアカウンティングによって非合理的なお金の使い方をしてしまった経験があれば(例: ボーナスだからと無計画に大きな買い物をして後悔した、など)、それを子どもに分かりやすく話して聞かせることも、お金との健全な付き合い方を学ぶ良い機会になります。
まとめ
メンタルアカウンティングは、子どもに限らず多くの人が持つお金に対する自然な心理傾向です。この行動経済学的な視点を持つことで、なぜ子どもが特定のようにお金を使うのか、その背景にある心理を理解しやすくなります。
メンタルアカウンティングを完全に無くす必要はありませんが、お金を心の中で分類しすぎることが、お金全体の管理や賢い使い方の妨げになる可能性があることを、子どもが少しずつ理解できるように導くことが大切です。お金の全体像を見せたり、使い道や目的に焦点を当てた声かけをしたり、計画的な予算設定を一緒に考えるといった方法を通じて、子どもがお金とのより良い関係を築けるようサポートしていきましょう。