親のための行動経済学お小遣い術

お小遣いの渡し方・教え方、「フレーミング効果」で子どものお金の意識を変える

お小遣いの教え方が変わる？行動経済学「フレーミング効果」とは

子どもにお金の大切さや使い方を教えるのは、多くの保護者にとって悩ましい課題の一つかもしれません。一生懸命説明しても、子どもに響かないと感じることもあるのではないでしょうか。実は、同じ内容でも「どのように伝えるか」によって、受け手の感じ方やその後の行動は大きく変わることがあります。この「伝え方の違いによる影響」は、行動経済学で「フレーミング効果」と呼ばれています。

フレーミング効果とは？

フレーミング効果とは、問題や情報がどのような「枠組み（フレーム）」で提示されるかによって、人々の判断や選択が変化する現象を指します。最も有名な例として、「生存率90%」と「死亡率10%」という表現があります。どちらも同じ状況を示していますが、「生存率90%」と聞くと安心感を覚える人が多いのに対し、「死亡率10%」と聞くとリスクを感じる人が増える傾向があります。これは、利得（生存）として提示されるか、損失（死亡）として提示されるかで、人々の意思決定が変わることを示しています。

この効果は、子どもとのお金のやり取りや、お小遣いのルールを伝える場面でも応用できます。言葉の選び方一つで、子どもがお金を貯めることに前向きになったり、計画的に使う意識を持ったりすることが期待できます。

お小遣い教育におけるフレーミング効果の応用例

では、具体的にお小遣い教育でフレーミング効果をどのように活用できるのか、いくつかの例を見てみましょう。

例1：貯金を促す言葉がけ

子どもがもらったお小遣いをすぐに使ってしまう傾向がある場合、貯金の大切さをどのように伝えるかが重要になります。

• 「〇〇円使わなければ、〇〇円残るよ」 この言い方は、「使う」という行動を抑制し、「残る」という現状維持に焦点を当てています。これは「損失回避」に近い考え方を呼び起こす可能性がありますが、子どもにとっては自由に使えないことへの制約や損失として感じられる場合もあります。

• 「〇〇円貯めると、△△円になるよ」「〇〇円貯めれば、欲しかった××が買えるよ」 一方、こちらの言い方は、貯金によって得られる将来の利得（金額が増える、目標物が買える）に焦点を当てています。利得として提示することで、子どもは貯金という行動に対し、より前向きな価値や目的意識を持つ可能性が高まります。

同じ「お金を減らさずに取っておく」という行為でも、「使わない」という損失（使えたはずのお金を使わない）を強調するか、「貯めることで得られる」という利得を強調するかで、子どもの受け止め方は変わるのです。

例2：お金の使い道に関するルール設定

お小遣いで何を買って良いか、何を買ってはいけないかを伝える場面でもフレーミングは有効です。

• 「これは買ってはいけないものリスト」 「いけないこと」や「制限」に焦点を当てたネガティブなフレーミングです。子どもは禁止されているものに意識が向きやすく、反発心を持つ可能性も考えられます。

• 「これはお小遣いで買えるものリスト」「〇〇に使って良いお金だよ」 こちらは、「できること」や「許容範囲」に焦点を当てたポジティブなフレーミングです。子どもは何が許されているかを理解しやすく、その範囲内で工夫して使うことを促します。自由度があると感じさせることで、主体的なお金の管理意識を育む可能性があります。

例3：お小遣いの金額や増額に関する伝え方

お小遣いの金額を決める際や、将来的に増額する可能性について話す際にも応用できます。

• 「今月は〇〇円だけね」 これは「今もらえる金額」に焦点を当てたフレーミングです。子どもによっては、もっと欲しいという不足感や不満を感じやすいかもしれません。

• 「まずは〇〇円から始めてみよう。頑張ったら△△円に増えるよ」 これは「スタート地点」と「将来の可能性（利得）」に焦点を当てたフレーミングです。現状の金額を受け入れやすくし、目標達成による報酬を意識させることで、お小遣いの管理やお手伝いなどへのモチベーションにつながる可能性があります。

なぜフレーミング効果が子どもに有効なのか

子どもは大人に比べて、抽象的な思考よりも具体的で分かりやすい情報に影響されやすい傾向があります。また、将来の大きな報酬よりも、目先の小さな報酬に価値を感じやすい「現在バイアス」も持ち合わせています。

フレーミング効果を活用し、貯金や計画的な支出といった望ましい行動を「将来得られるポジティブな結果」や「できること」として提示することは、子どもの認知特性や行動原理に寄り添った教え方と言えます。損失や制限を強調するよりも、利得や可能性を強調する方が、子どもは前向きに行動を変えやすいと考えられます。

実践のヒント：言葉を選び、具体的に伝える

フレーミング効果をお小遣い教育に生かすためには、親が普段使っている言葉に意識を向けることが第一歩です。

• ポジティブな言葉を選ぶ: 「〜してはいけない」よりも「〜しようね」、「〜すると損だよ」よりも「〜すると得だよ」というように、前向きな言葉を選ぶよう心がけます。
• 利得を具体的に示す: 貯金することで何が得られるのか（欲しいものが買える、将来の安心など）を、子どもが理解できる形で具体的に伝えます。抽象的な「将来のため」よりも、「あと〇〇円貯めれば、このゲームが買えるね！」のように具体的な目標を示す方が効果的です。
• 「できること」に焦点を当てる: ルールを伝える際は、できないことのリストではなく、できることのリストや、何のためにこのルールがあるのか（目標を達成するため、お金を大切にするためなど）を具体的に説明します。

まとめ

お小遣い教育は、単にお金の計算ができるようにするだけでなく、子どもがお金との健全な関係を築き、将来にわたって賢く意思決定できる基礎を育む重要な機会です。行動経済学のフレーミング効果は、同じメッセージでも伝え方を変えるだけで、子どものお金に対する意識や行動に良い変化をもたらす可能性を示唆しています。損失や制限としてではなく、利得や可能性としてお金との付き合い方を伝えることで、子どもはお金についてよりポジティブに学び、主体的に管理する力を身につけていくことが期待できます。今日から、お子さんへのお金に関する言葉がけを少し意識してみてはいかがでしょうか。