子どもがお金で「なんとなく」決めてしまう理由 行動経済学「ヒューリスティックス」から考えるお小遣い教育
子どもがお金で「なんとなく」決めてしまうのはなぜでしょうか
お子様にお小遣いを渡し始めた頃、「なぜこれを選んだの?」「どうしてこれにお金を使ったの?」と尋ねても、「なんとなく」「みんな持っているから」「安かったから」といった曖昧な答えが返ってくることはありませんか。時には、明らかに質が悪そうなものや、すぐに飽きてしまいそうなものにお金を使い、後で後悔する様子を見ることもあるかもしれません。
このような子どものお金に関する意思決定には、人間の思考の癖が関係していることがあります。行動経済学では、人々が複雑な状況で素早く判断を下すために使う「思考の近道」や「経験則」をヒューリスティックスと呼びます。これは大人にも子どもにも見られる傾向です。ヒューリスティックスを理解することで、子どもがお金を使う際の背景にある思考を捉え、より良い選択を促すヒントが得られます。
行動経済学「ヒューリスティックス」とは?
ヒューリスティックスは、難しい問題を直感や経験に基づいて素早く判断するための、私たちの脳に備わった機能です。情報が多すぎる時や、じっくり考える時間がない時などに役立ちますが、時には判断ミスや非合理的な行動につながることもあります。
お小遣いを使う場面でも、子どもは様々な情報に触れ、限られた時間の中で判断を下す必要があります。この時、ヒューリスティックスが無意識のうちに働き、熟慮せずに「なんとなく」決めてしまうことがあるのです。
特にお金に関する意思決定に影響を与えやすいヒューリスティックスをいくつかご紹介します。
利用可能性ヒューリスティック:覚えやすい情報で判断する
最近見聞きした情報、印象的な情報、簡単に思い出せる情報に基づいて判断を下しやすくなる傾向です。
- 子どもの例:
- テレビCMで頻繁に見るおもちゃやゲームは、きっと良いものだと信じやすい。
- 友達が「これ楽しかったよ!」と言っていたから、自分も欲しくなる。
- SNSで話題になっている商品に強く惹かれる。
これは、脳が「思い出しやすい=起こりやすい、重要だ」と判断するためです。広告や口コミといった「利用しやすい情報」に強く影響され、冷静な検討なしに「なんとなく」欲しくなってしまうことがあります。
代表性ヒューリスティック:典型的なイメージで判断する
特定のグループやカテゴリーの「典型的な特徴」に当てはまるかどうかで判断を下しやすくなる傾向です。ステレオタイプに基づいた判断とも言えます。
- 子どもの例:
- 値段が高いものは質が良いに違いない、安いものはすぐ壊れるだろうと思い込む。
- 有名なブランドのものは安心できる、流行りのデザインはかっこいいと思い込む。
- キャラクターが描いてあるから子供っぽいもの、大人向けのシンプルなデザインはつまらないものだと決めつける。
これは、目の前の対象が自分の持つ典型的なイメージにどれだけ「代表的」であるかで、その価値や性質を判断してしまうためです。個別の商品の具体的な情報よりも、カテゴリーに対する漠然としたイメージに影響されてしまいます。
ヒューリスティックスがお小遣いの使い方にどう影響するか
これらのヒューリスティックスは、子どもがお金を使う際に以下のような行動につながることがあります。
- 衝動買い: CMや友達の言葉にすぐに影響され、「今すぐ欲しい!」となってしまう。
- 情報に流される: SNSや友達の間で流行っているものを、深く考えずに欲しがる。
- 価格やブランドへの固執: 「高い=良い」というイメージだけで商品を選んだり、特定のブランド以外を検討しなかったりする。
- 多様な選択肢を見落とす: 最初に思いついたものや、印象に残ったものだけで判断し、他の選択肢を十分に比較検討しない。
親ができること:ヒューリスティックスを理解したサポート
子どもがヒューリスティックスによって「なんとなく」お金を使ってしまうことを完全に防ぐことは難しいかもしれません。しかし、親がこれらの思考の癖を理解し、意識的にサポートすることで、子どもがより慎重に、そして納得して意思決定できるよう促すことが可能です。
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子どもの思考プロセスに寄り添う問いかけ: 「なぜそれが欲しいと思ったの?」と単に聞くのではなく、「どういう情報を見て、それが良いと思ったの?」「友達が『良い』って言ってたから?」「どこでそれを見たの?」など、判断の背景にある情報源や理由について具体的に問いかけてみましょう。責めるのではなく、「一緒に考えてみようか」という姿勢が大切です。
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多様な情報に触れる機会を提供する: 特定のCMやSNSの情報だけでなく、商品のレビューを一緒に見たり、類似商品を扱っている複数のお店を回ってみたりするなど、一つの情報源に偏らないように意識的に多様な情報に触れさせましょう。
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比較検討の習慣を身につけさせる: 「同じようなものでも、こっちの方が少し安いね」「この商品の良いところと、そうでもないところはどこだろう?」など、具体的な商品名を挙げながら比較検討するプロセスを体験させましょう。値段だけでなく、質、機能、本当に必要かなどを多角的に見る視点を養います。
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失敗を学びの機会とする: ヒューリスティックスによって「なんとなく」買ってしまい、結果的に満足できなかった場合でも、子どもを責めないでください。「この経験から何を学んだかな?」「次買う時は、どんなことを考えてみようか?」と前向きに振り返る機会としましょう。
まとめ
子どもがお金を使う際の「なんとなく」という行動の裏には、私たちの思考の癖であるヒューリスティックスが影響していることがあります。利用可能性ヒューリスティックや代表性ヒューリスティックといった「思考の近道」を理解することは、親が子どものお金に関する意思決定の背景を把握し、適切なサポートを行うための第一歩となります。
子どもが情報に流されたり、漠然としたイメージだけで判断したりするのではなく、自分にとって本当に価値のあるものを見極められるようになるためには、親の丁寧な関わりが不可欠です。ヒューリスティックスという視点を持つことで、子どもの行動を新しい角度から理解し、より効果的なお小遣い教育につなげることができるでしょう。