感情的にお金を使ってしまう子へ 行動経済学から学ぶ、感情との賢い付き合い方
はじめに:子どものお金の使い方に見え隠れする「感情」
お子様がお金を使う際、どのような様子を見せますか。欲しいものを我慢できずにすぐに使ってしまう、友達が持っているものを見ると急に欲しがる、あるいは何か嫌なことがあった後に衝動的に買い物をしたがる、といった姿を目にすることがあるかもしれません。
子どもだけでなく、大人もお金を使う行動は、実は論理的な判断だけではなく、感情に大きく左右されることがあります。これは行動経済学においても重要なテーマの一つです。お金は単なる交換手段ではなく、喜びや不安、羨望といった様々な感情と結びついています。
この記事では、行動経済学の視点から、子どもがお金を使う際に感情がどのように影響するのかを解説します。そして、その理解を基に、お子様が感情と賢く向き合いながら、お金と上手に付き合っていくための具体的なヒントをご紹介します。
なぜ子どものお金の使い方は感情に左右されるのか?
行動経済学では、人間は必ずしも合理的に判断するわけではないと考えます。特に子どもは、まだ感情のコントロールや将来の見通しを立てることが難しいため、感情的な要因がお金に関する判断に強く影響を及ぼしやすいと言えます。
例えば、行動経済学では「感情バイアス」という言葉が使われることがあります。これは、特定の感情(喜び、不安、興奮など)が判断や意思決定を歪めてしまう現象を指します。子どもが欲しいものを見た時の強い「欲しい」という興奮、友達が持っていることへの「羨ましい」という気持ち、あるいはテストで良い点が取れた時の「嬉しいから何か買いたい」という高揚感などが、お金を使いたいという衝動につながることがあります。
また、目先の利益を優先し、将来の大きな利益を割引いて評価してしまう「遅延割引」の傾向も、感情と関連が深いと考えられます。「今すぐ手に入る喜び」という強い感情が、「将来のためにお金を貯める」という、より大きな(しかし時間的に遠い)利益よりも魅力的に感じさせてしまうのです。
具体的なシチュエーションと行動経済学的な視点
子どものお小遣い教育の中で、感情が影響していると考えられる具体的なシチュエーションをいくつか見ていきましょう。
- 嬉しい・悲しい時の衝動買い: 遊園地で楽しい気分の時につい余計なものを買ってしまう、友達と喧嘩して気分が落ち込んでいる時に気を紛らわせるために何か買ってしまう、といった行動です。これは、その時の感情を満たすために、お金を使うことが手っ取り早い手段として選ばれるケースです。
- 友達との比較: 友達が最新のおもちゃやゲームを持っているのを見て、「自分も欲しい」と強く感じる状況です。「みんなが持っている」という状況に対する安心感や、仲間外れになりたくないという感情が、購買意欲を刺激します。行動経済学の「社会的証明」(他の人がしていることを見て安心したり真似したりする傾向)とも関連があります。
- セール品や限定品への反応: 「今買わないと損だ」「これだけ安いなら買うべきだ」といった感情が強く働く状況です。「損失回避」(損することを強く嫌う傾向)や、希少性への反応が組み合わさって、感情的な「買い」の判断につながることがあります。
これらの行動の背景には、単に欲しいものがあるというだけでなく、その時の感情を処理したい、あるいは特定の感情(喜び、安心、優越感など)を得たいという心理が働いていると考えられます。
感情と賢く向き合うためのお小遣い教育のヒント
では、このような感情的な側面を理解した上で、親は子どもにどのようなサポートができるでしょうか。行動経済学の知見を応用した具体的なヒントをご紹介します。
1. 感情を認識し、言葉にする練習をする
お子様がお金を使いたがっている時、または使った後に、「今どんな気持ち?」と尋ねてみてください。なぜそれが欲しいのか、どんな時に買いたくなるのかを一緒に話し合うことで、子ども自身が自分の感情を認識し、それがお金を使う行動にどうつながっているのかを理解する第一歩となります。例えば、「お友達が持っていて、少し羨ましかったんだね」のように、感情を言語化する手助けをします。
2. 「一呼吸置く」仕組みを作る(ナッジ)
衝動的な感情によるお金の使い方を防ぐために、物理的・心理的な「一呼吸置く」仕組みを作ることが有効です。これは行動経済学でいう「ナッジ」(人々を強制することなく、望ましい行動にそっと後押しする仕掛け)の一種です。
- タイムラグを設ける: 「欲しいものがあっても、その場では買わずに一度家に帰って考えよう」「お小遣いをもらったその日には高額なものは買わない」といったルールを設けることができます。
- 「欲しいものリスト」の活用: 衝動的に買いたくなったものをすぐに買うのではなく、一度リストに書き出す習慣をつけることも効果的です。リストを見返すことで、本当に必要か、その時の感情に流されていないかを冷静に判断する機会が生まれます。
3. お金の使い方を「感情」と一緒に振り返る
お小遣い帳をつける際、何を買ったかだけでなく、「その時どんな気持ちだったか」も一緒に記録する欄を設けてみるのはどうでしょうか。週末などに親子で振り返りながら、「このおもちゃを買った時はすごく嬉しかったけれど、次の日には飽きてしまったね。あの時の『欲しい!』という気持ちは、どんな気持ちだったのかな?」のように、お金を使った時の感情とその後の満足度を結びつけて考えさせます。これにより、感情に流された買い物が必ずしも長期的な幸福につながらないことを、経験として学ばせることができます。
4. お金を使わない代替行動を提案する
感情を満たすためにお金を使う以外の方法があることを教えることも大切です。例えば、悲しい時にお菓子を買うのではなく、好きな音楽を聴く、絵を描く、親や友達と話すといった、お金を使わずに気分転換や問題解決をする方法があることを一緒に探します。
5. 親自身が感情に流されない姿を見せる
親自身がお金について話したり使ったりする際に、感情的に判断せず、落ち着いて計画的に行う姿勢を見せることも重要です。子どもの前で感情的な衝動買いを避けたり、お金に関する悩みや不安を冷静に話し合ったりする姿は、子どもにとって良い手本となります。
まとめ:感情を理解し、賢いお金の学びへ
子どものお金の使い方には、必ずと言って良いほど感情が影響しています。この感情的な側面を単に否定するのではなく、行動経済学のレンズを通して理解することで、なぜ子どもが特定のお金の使い方をするのか、その背景が見えてきます。
感情をコントロールすることは子どもにとって難しい課題ですが、自分の感情に気づき、それがお金の判断にどう影響するかを知ることは、将来にわたってお金と賢く付き合っていくための重要なステップです。今回ご紹介したようなヒントを参考に、お子様が感情と上手に向き合いながら、計画的で満足度の高いお金の使い方を学んでいけるよう、穏やかな対話と具体的な工夫を重ねていくことが大切です。