すぐにお金を使いたがる子へ 行動経済学「遅延割引」でお小遣いの将来価値を伝える方法
親がお子様にお小遣いを渡すとき、せっかく計画を立ててもすぐに使ってしまい、貯金や将来の目標達成に繋がらない、といった悩みを抱えることがあるかもしれません。なぜ子どもは、少し待てばもっと良いものが買えるのに、目先の小さなお金を選びがちなのでしょうか。
この行動には、行動経済学で「遅延割引(時間割引)」と呼ばれる概念が関わっています。この考え方を理解することで、お子様のお金の使い方や、将来について考える力を育むヒントが見つかります。
行動経済学「遅延割引」とは
遅延割引とは、将来得られる報酬の価値を、それが手に入るのが遅くなるにつれて割り引いて評価してしまう人間の傾向のことです。例えば、「今日100円もらう」のと「1ヶ月後に110円もらう」のとでは、合理的に考えれば1ヶ月後の110円の方が得ですが、多くの人は「今日100円」を選びがちです。
時間が経つほど、人は報酬の価値を低く見積もってしまいます。特に子どもは、大人に比べてこの遅延割引の影響を強く受ける傾向があります。脳の発達段階として、まだ将来を見通したり、欲望を抑えたりする前頭前野の機能が十分に発達していないことが関係していると考えられています。そのため、目の前にある小さなお金や、すぐに手に入るお菓子などの誘惑に抗うのが難しいのです。
なぜお子様は「すぐ使う」を選びがちなのか
お小遣いの文脈で言えば、お子様にとって「今、目の前にあるお菓子やオモチャを買うためのお金」は、1ヶ月後や1年後に大きな買い物のために貯めるお金よりも、はるかに価値が高く感じられるということです。
例えば、「お小遣いを3ヶ月貯めたら欲しかったゲームソフトが買えるよ」と伝えても、目の前にある100円で買える駄菓子の魅力には勝てない、といった状況がこれに当たります。将来の目標が遠く抽象的であるほど、その価値は「割引かれ」、魅力が薄れてしまうのです。
お小遣い教育に「遅延割引」の視点を活かす方法
お子様が遅延割引の影響を受けやすいことを踏まえ、お小遣い教育では将来の価値をより「大きく」、魅力的に感じさせる工夫や、待つことのメリットを体験させる機会を作ることが重要になります。
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将来の目標を具体的に「見える化」する 貯金の目標額や、それで何を買いたいのかを、抽象的な数字だけでなく、写真やイラストなどで具体的に示すことが有効です。貯金箱に目標物の写真を貼る、貯金の進捗をグラフや表で記録するなど、視覚に訴えることで、将来の目標がより現実味を帯び、価値が割引かれにくくなります。これは行動経済学でいう「ナッジ(そっと後押し)」の考え方にも通じます。
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待つことのメリットを体験させる ただ待つだけでなく、待つこと自体に付加価値をつけることも有効です。例えば、「1ヶ月間お小遣いを全額貯めたら、親から少しプラスしてあげる」といったインセンティブを設定することで、待つことのメリットを明確に体験させられます。これは貯金に対するモチベーションを高め、遅延割引を乗り越える後押しになります。ただし、この方法は頻繁に行いすぎると依存を生む可能性もあるため、バランスが大切です。
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短い期間での目標設定も活用する あまりに長期的な目標は、子どもにとって価値が大きく割引かれすぎてしまう可能性があります。まずは1週間後、1ヶ月後といった比較的短い期間で達成できる小さな目標を設定し、成功体験を積ませることから始めるのも良いでしょう。小さな成功を積み重ねることで、将来の目標達成への道筋が見えやすくなります。
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お金の使い道について対話する 「今すぐ使いたいもの」と「将来買いたいもの」について、定期的にお子様と話し合う時間を持つことも重要です。それぞれの買い物について、どれくらいの価値があるのか、待つことでどんな良いことがあるのかなどを一緒に考えることで、お子様自身が将来の価値について意識するきっかけになります。一方的に我慢を強いるのではなく、選択肢とその結果について一緒に考える姿勢が大切です。
まとめ
お子様がお小遣いをすぐに使ってしまうのは、意志が弱いのではなく、行動経済学的な人間の傾向である「遅延割引」の影響を強く受けているためです。この特性を理解し、将来の目標を「見える化」したり、待つことのメリットを体験させたり、短い期間での目標設定を活用したり、お金の使い道について対話したりといった具体的な工夫を取り入れることで、お子様は目先の誘惑に打ち勝ち、将来のためにお金を管理する力を少しずつ身につけていくことができるでしょう。行動経済学の知見を活かし、お子様のペースに合わせて、楽しくお金の将来価値を伝えるお小遣い教育を進めていくことが期待されます。