広告や友達の一言に影響されやすい子へ 行動経済学「利用可能性ヒューリスティック」でお金の判断力を育むヒント
なぜ子どもは目にした情報に影響されやすいのでしょうか
子どものお金の使い道を見ていると、「ついこの間見た広告の商品が欲しい」「友達が持っているから自分も買う」といった理由で、特に深く考えずにお金を使ってしまう場面に出会うことがあるかもしれません。親としては、もっと計画的にお金を使ってほしい、他の選択肢も考えてほしいと感じることがあるでしょう。
このような子どものお金に関する判断の傾向は、行動経済学で説明できることがあります。その一つに「利用可能性ヒューリスティック」という概念があります。これは、人間が判断を下す際に、頭の中で「思い出しやすい情報」や「すぐに利用できる情報」に頼りがちである、という心理的な特性を示しています。
利用可能性ヒューリスティックとは?
利用可能性ヒューリスティックは、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏らが提唱した概念です。人は複雑な問題や不確実な状況に直面した際、直感的に素早く判断するために、過去の経験や記憶の中からすぐに思い出しやすい情報を手掛かりにする傾向があります。
例えば、飛行機事故のニュースを立て続けに見聞きすると、実際には自動車事故の方が統計的に多いにもかかわらず、「飛行機に乗るのは怖い」と感じやすくなります。これは、強く印象に残った情報(飛行可能性が高い情報)が、判断に大きな影響を与えるためです。私たちの脳は、必ずしも正確な確率や統計に基づいて判断するのではなく、いかに簡単に情報を「利用可能」(思い出しやすい)にできるかに影響されることがあるのです。
お小遣い教育における利用可能性ヒューリスティック
この利用可能性ヒューリスティックは、子どもがお金を使う際の判断にも大きく影響を与えます。子どもにとって利用可能性が高い情報とは、どのようなものでしょうか。
- 直近の体験: 少し前にした楽しい買い物や、欲しかったものを手に入れたときの満足感。
- 身近な情報: 友達が持っているゲームや流行のおもちゃ、テレビCMで繰り返し流れる商品、YouTubeなどで見た動画。
- 強く印象に残ったこと: 見た目が派手な広告、お得感を強調するキャッチフレーズ。
こうした情報は、子どもたちの記憶に強く残りやすく、お金を使おうかどうしようかと考えたときに、すぐに頭に浮かびやすい傾向があります。一方で、将来の貯金目標や、他のお金の使い方といった、抽象的で具体的なイメージがしにくい情報は、利用可能性が低くなりがちです。
そのため、子どもは「目の前の魅力的なもの」や「思い出しやすい楽しかった体験」に引っ張られ、計画していた貯金を取り崩してしまったり、本当に必要かよく考えずに衝動買いをしてしまったりすることがあるのです。
利用可能性ヒューリスティックを理解してお金の判断力を育むヒント
子どもがお金に関する様々な情報の中で、偏りなく、より良い判断ができるようにサポートするために、利用可能性ヒューリスティックの考え方を応用できます。
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「良いお金の使い方」の利用可能性を高める: 単に「無駄遣いはいけない」と言うだけでなく、貯金ができた時の達成感や、計画通りにお金を使えた時の満足感を子どもが具体的にイメージしやすくする工夫が有効です。
- 貯金箱の金額が増える様子を「見える化」する。
- 貯金目標を絵や写真で具体的に示す。
- お金を計画通りに使えたら褒めるなど、良い体験を記憶に残りやすくする。
- 欲しいものをすぐ買うのではなく、一度家に持ち帰って考える時間を作るルールを作る。
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多様な「お金の使い道」の情報を提示する: 特定の商品の広告や友達の情報だけでなく、世の中には様々なお金の使い道があることを示します。
- 将来のために貯金することの価値を、子どもにも理解できる言葉で伝える。
- 寄付やボランティアなど、お金が社会でどのように役立っているかを紹介する。
- 本や体験など、形に残らないけれど価値のあるお金の使い方もあることを話す。
- 何かを買う前に、複数の選択肢を比較検討する習慣を促す。
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「なぜそう決めたのか」を振り返る習慣をつける: お金を使った後で、「なぜこれを選んだの?」「他のものは考えなかった?」といった問いかけを通じて、子ども自身が自分の判断プロセスを振り返る機会を作ります。
- お小遣い帳をつける習慣は、何にお金を使ったかを記録し、後で振り返るための有効なツールです。
- 週に一度など、定期的にお小遣いの使い方について親子で対話する時間を持つことも良いでしょう。
利用可能性ヒューリスティックを理解することは、子どもがなぜ特定の情報に影響されやすいのかを親が把握する助けになります。その上で、意図的に「良いお金の使い方」に関する情報の利用可能性を高めたり、多様な選択肢に目を向けさせたりすることで、子どもがバランスの取れたお金の判断力を育むサポートができるでしょう。
親が子どもに対して、お金の使い方について一方的に指示するのではなく、「なぜこのように感じるのかな?」「どんな選択肢があるかな?」と一緒に考える姿勢を見せることも、子ども自身の考える力を育む上で大切になります。