最初のお小遣い額が大事?行動経済学「アンカリング効果」がお金の価値観を育むヒント
お小遣いの金額設定、これでいいのかと悩んでいませんか
お子様にお小遣いを渡し始める際、いくら渡せば良いのか、どのように決めれば良いのか悩む保護者の方は多いかもしれません。周りの家庭の金額を参考にしたり、子どもの年齢や学年に応じた相場を調べたりしながら、試行錯誤されていることと思います。
実はお小遣いの金額を決めることや、お金について子どもと話す際に伝える情報は、単なる金額の多寡以上に、その後の子どもの金銭感覚やお金に対する価値観に影響を与える可能性があります。そこには、行動経済学で知られる興味深いメカニズムが関係していると考えられます。
行動経済学「アンカリング効果」とは
行動経済学における「アンカリング効果」とは、最初に提示された数字や情報(アンカー)が、その後の判断や意思決定に無意識のうちに大きな影響を与えるという現象です。たとえ、そのアンカーが判断とは無関係である場合でも、人はそこから大きく離れられない傾向があります。
有名な実験では、被験者にルーレットで適当な数字を出させ、その数字を見てから、国連に加盟しているアフリカの国の割合が何%かを推定してもらうというものがあります。ルーレットで大きな数字が出たグループは、小さな数字が出たグループよりも、アフリカの国連加盟国の割合を高く推定しました。これは、ルーレットの数字という無関係なアンカーに、その後の推定が引っ張られた例とされています。
このように、人は何かを判断する際に、最初に得た情報を基準点(アンカー)としてしまい、その基準点から少しずつ調整はするものの、十分に調整しきれないことで判断が歪められることがあります。
アンカリング効果がお金や価値の認識にどう影響するか
アンカリング効果は、私たちの日常的な「お金」に関する判断にも深く関わっています。
例えば、商品の値段を見る際に、最初に目にする価格(希望小売価格や元の価格など)がアンカーとなり、その後の判断に影響を与えることがあります。セールで「〇〇円が△△円に!」と表示されているのを見ると、「元の価格」がアンカーとなって、割引後の価格が非常にお得に感じられるといった現象が起こり得ます。
また、不動産や車の価格交渉などでも、最初に提示された金額がアンカーとなり、その後の交渉範囲や最終的な決定価格に影響を与えることが知られています。
お小遣い教育におけるアンカリング効果の可能性
このアンカリング効果は、子どもがお金について学び、金銭感覚を形成する過程でも影響していると考えられます。
例えば、子どもが初めてお小遣いをもらう際に設定された金額は、子どもにとってのお金の「基準」となる可能性があります。もし最初からあまりにも高額なお小遣いをもらうと、それがアンカーとなり、物の価値や一般的な金額感覚が歪んでしまうことが懸念されます。反対に、極端に少額だと、お金でできることの範囲が狭まり、金銭への関心が持ちにくくなるかもしれません。
また、お店で「このお菓子は100円だよ」「あのゲームは5000円もするんだよ」といった親の発言や、友達がもらっているお小遣いの額なども、子どもにとっては「アンカー」となり得ます。これらの情報が、子ども自身の「お金」や「物の値段」に対する認識の基準を形作る可能性があるのです。
アンカリング効果を理解し、お小遣い教育に活かすヒント
アンカリング効果を理解することで、子どもの健全な金銭感覚を育むために、親が意識できるいくつかの点が見えてきます。
- 最初のお小遣い額を「なぜその金額にしたのか」説明する: 単に金額を与えるだけでなく、「なぜこの金額にしたのか(例: 1週間で何ができるか、何が買えるか)」を具体的に伝えることで、その金額が持つ意味や価値を子どもが理解しやすくなります。金額自体だけでなく、その背景にある考え方も同時に「アンカー」として提示することが大切です。
- 物の値段について話す際は、価値や労力にも言及する: 商品の価格を伝えるだけでなく、「このリンゴは農家の方が一生懸命作ったからこの値段なんだよ」「おもちゃを作るのにもたくさんの人が関わっているんだよ」のように、その価格が持つ背景にある価値や関わる人々の労力にも言及することで、単なる数字ではない「価値」を理解する手助けになります。
- お金に関するポジティブな「アンカー」を作る: お金は「使う」だけでなく、「貯める」ことで将来の選択肢が広がる、誰かの役に立つために「使う」こともできる、といったポジティブな側面にも焦点を当てて話すことで、お金に対する健全な価値観のアンカーを形成できます。「無駄遣い」ばかりに注目するのではなく、「目標達成のための貯金」「計画的な使い方」など、前向きな行動に光を当てることも重要です。
- 「相場」を唯一の基準としない: 周りの家庭や一般的な相場は参考になりますが、それが唯一のアンカーとならないよう注意が必要です。家庭の方針、子どもの年齢、お小遣いの使途(何を含むか)などを考慮して、家庭独自の基準を持つことが、子どもにとってもブレない金銭教育の基盤となります。
まとめ
行動経済学のアンカリング効果は、私たちが無意識のうちに最初の情報に判断を引っ張られてしまう傾向を示しています。これは子どものお小遣い教育においても、最初に与える金額や、お金に関する親の発言が、子どもの金銭感覚や価値観の「アンカー」となる可能性を示唆しています。
この効果を理解し、単に金額を決めるだけでなく、「なぜその金額なのか」「お金で何ができるのか」「物の価値とは何か」といった背景にある考え方やポジティブな側面も伝えることで、子どもがお金に対して健全な基準を持ち、賢く付き合っていくための土台作りにつながるでしょう。